SG0737 星山十希

とある日の午後のお話。

 ネコノクソ国立公園。
 何とも嫌なイメージ漂う名前とは裏腹に子供の姿多いこの場所で、黙々と清掃作業に勤しんでいる一人の男の姿があった。
 行き交う人影は多かれど、誰も彼に声をかける事はなく。せっせとゴミを掃き、纏めて、捨て。そうしてゴミ籠の中身を取り替えたところで、漸く声をかける存在が現れた。

「よぉ、スナバニ。精が出るな」

「あ、ヨークさん。こんにちは」

 スナバニと呼ばれた青年は顔を上げ、現れた男性に軽い会釈をする。スナバニよりも幾らか年かさなのだろうか。もっともエルフという種族である事を考えれば、見目だけで年の頃を判断できるはずも無いのだが。

「みんな綺麗に使ってくれますからね。掃除も楽ですし何よりやりがいがあります」

 そう言ってスナバニはにっこりと笑う。
 その思いをヨークも勿論良く知っていた。だからこそ彼は毎日の清掃を欠かさないのだし、だからこそ───

「そういや一段落したところじゃないか? そうならちょいっと休憩しようじゃないか」

 労わりたくもなるんだろう。ゴミ袋が纏められた状態である事を確認すると、ヨークはニッと笑って尋ねかける。
 何やら"イイコト"を分かっているような笑みだ。

「あ、大丈夫です。…ここでですか?」

 そんなヨークにスナバニは、何かあるんだろうという予測はできた。
 だけどそれ以上の事は分からなかったから、口にしたのは問い返しのようなもの。

「や、我らが城であるノタレジーニでだ。珍しい酒が入ったんでな、一人占めしても良かったんだが折角だしな」

「それは…是非ご一緒したいですね」

 思いがけない提案に、その笑みの理由に、スナバニは嬉しそうに頷いた。
 ノタレジーニへ向かうのならば、このゴミも捨てる事ができて正しく好都合。

「ついでにミストレのヤツになんかつまみでも作ってもらうか。今なら食堂も空いてんだろ」

 そんな目論見を画きつつヨークは揚々と歩き出す。勿論、スナバニも隣に並んで。

「───ところで、ヨークさん」

 ふと何かを思い出したようにスナバニが口を開く。
「今、家主さんたちの間で何か、僕たちみたいな管理者を対象にしている事があるとか何とか……知ってます?」

「…なんだそりゃ。随分あやふやな情報だな」

 スナバニの突然の言葉に、ヨークは呆れたように視線をスナバニへ向け。そしてすぐに楽しげな笑みを浮かべて、こう言ってみせた。

「ま、何があるのか知らねぇけど。そーゆーのはミストレやらビシバやらイノールやらが餌食になるようなもんだろ。俺らみたいなのは気にされないだろうし、笑って見てればいいんじゃないか?」

「あー……確かにそうですね。うん」

 ヨークの言葉は説得力があるものだったから、ささやかな引っかかりもすっぽりと抜けてしまったようで。
 何度か納得して───後は意識の奥底へと放り投げてしまう。


 …しかし彼らはまだ知らない。
 そんな人たちだからこそネタにしたくなるような捻くれ者も中にはいるという事を。



 彼らが頭を抱える羽目になるのは、もう少しだけ先の話───